第14回 UAVと360度カメラを用いた空撮

1.なぜドローンと360度カメラで湿地を撮影するのか?

湿原植物の分布は水位や水質に極めて敏感ですが、湿地は足場が悪くアクセスが困難です。調査員の立ち入りによる踏圧や植生の破壊、希少動物への影響(非侵襲的調査の限界)が課題でした。また、上空からの航空写真や衛星画像では、草陰に隠れた下層植生の詳細まで識別することは困難でした。
UAV(ドローン)の下部に1 mの延長バーと360度カメラを吊り下げ、植物に接近・挿入して撮影を行うシステムを構築しました。現地に踏み込むことなく、上空からの植生面(最上端)から植生内部の下層植物まで高解像度かつ高精度な位置情報付きで360度VR画像としてアーカイビングできます。

2.撮影用の機材

長時間安定して飛行できるように、小型から大型まで複数の撮影機材を試作・検証しました。

様々なタイプの撮影機材

現地への運搬性、飛行時間、飛行安定性のバランスを考慮し、再選定を繰り返して構築したのが本システムです。UAVの下部に360度カメラを吊り下げて安定した飛行を行うため、カメラ接続マウント、ユニバーサルジョイント、カメラ用延長バー、ランディングスキッドなどを取り付けています。

改良した撮影用機材

UAV本体(DJI Matrice 30): 高精度な測位(RTK-GNSS)に対応し、長時間飛行(最大48分)と折りたたみ可能な優れた携行性を備えています。
VRカメラ(Insta360 X3): 軽量かつ高画質(静止画72メガピクセル)な全方位画像が得られ、一定間隔で自動撮影を行うインターバル撮影機能を備えています。Insta360 GPSアクションリモコンと併用して撮影時の位置情報を記録します。
ユニバーサルジョイント: 2軸方向に可動する構造で、飛行中の風や機体の傾きによる揺れを解放し、制動・防振の役割を果たして飛行安定性を確保します。
カメラ用延長バー: 長さ1 mの軽量カーボンパイプで、背の高い草本や灌木の内部へカメラを安全にアプローチ(挿入)させるためのものです。
ランディングスキッド: 機体脚部を拡張したもので、延長バーやカメラが機体・プロペラと干渉するのを防ぎます。

独自に製作した撮影用パーツ

市販品が存在しない接続パーツ類は、強度や耐久性に優れた素材(カーボン配合ポリカーボネート等)を用いて独自に設計し、3Dプリンターで製作しています。各パーツの設計・製作方法の詳細はい、参考資料の1)の「3Dプリントパーツの製作マニュアル(Appendix 1)」をご覧になりご覧ください。

3.安全・効率的な撮影手順(プロトコル)

UAVの飛行の前には、ドローン情報基盤システム(DIPS 2.0)での機体登録が必要です。本機体は延長バー等を装着した改造機として登録する必要があります。また、飛行にあたっては航空法に基づく飛行許可・承認申請手続きが必要です。
現場での空撮は、ウェイポイント(通過点)による自動飛行を活用し、撮影高度2〜3 m、飛行速度2 m/sなどの設定で実施します。カメラの着陸時の破損を防ぐため、最終降下時は手動操作に切り替え、ランディングネットを用いて安全に機体を捕捉・着陸させます。具体例な手順や安全管理マニュアルの詳細はい、参考資料の1)の「UAV空撮運用・安全管理プロトコル(Appendix 2)」をご覧ください。

UAVの離発着の様子。着陸時はネットでVRカメラを捕捉してUAVを着陸させている。
4. データ処理と高精度ジオタグ補正

VRカメラで得られた画像にも位置座標が記録されますが、内蔵GPSの水平位置誤差は約10 mあり、撮影された植物の正確な位置を特定できません。そこで、UAV本体に搭載されたRTK-GNSSレシーバ(誤差数センチメートル級)の高度な位置ログデータ(CSV)を活用します。
画像撮影時刻とドローンの位置ログを同期させ、VRカメラ画像のExif情報(緯度・経度・高度・方位)を一括かき換えする自動処理プログラムを開発・適用することで、植物の正確な位置情報を画像に付与しています。このプログラムは、参考資料2)で公開しています。

5. 環境教育・デジタルアーカイブへの活用

撮影・位置補正されたVR画像を取り込み、バーチャルツアー制作作業用ソフトウェア(Pano2VR等)を用いてVRコンテンツを制作します。
これにより、WebブラウザやVRゴーグルで閲覧可能になり、実際の湿地に足を踏み入れなくとも、拡大機能を使って植物の種類や下層植生の様子を至近距離で観察でき、没入感のある学習体験を得ることができます。
高精度な位置座標が付与されているため、数年後に同じ場所・同じ高度で撮影して植生変化を比較検証することも可能です。将来の調査者が詳細な比較検証を行えるよう、参考資料3)のようにツアー制作前の一次VR画像データもデジタルアーカイブとして公開しています。

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落石湿原のVR画像で製作したバーチャルツアー

6.機材の運搬

今回の改良により撮影地への運搬は行い易くなりましたが、それでも荷物は多く、以下の写真のように機材を担いで現地に向かいます。大変な作業ですが、ここで公開しているオープン教材、バーチャルツアーはこうした地道な作業により制作されているのです。

UAVや機材を運搬している様子
参考資料

山田浩之,鈴木透,中村隆俊,田開寛太郎.湿地生態系モニタリングのためのUAVを用いたVR映像撮影機材の開発.応用生態工学,早期公開 (2026).
山田浩之,菅原隆介,鈴木透,中村隆俊,田開寛太郎.UAVフライトログを用いた後処理ジオタグ修正プログラム.応用生態工学,早期公開 (2026).
鈴木透,山田浩之,中村隆俊,田開寛太郎.オルソ画像とVR画像を用いた植生画像デジタルアーカイブの構築:静狩湿原の事例.応用生態工学,28(1),103-106 (2025).