第13回 植生データのまとめかた

 フィールドで調査(ちょうさ)した植生のデータは、植生調査(ちょうさ)票(ひょう)に現場(げんば)で記入します。植生調査(ちょうさ)データは学術的(がくじゅつてき)な記録(きろく)を目的(もくてき)としたものなので、種名(しゅめい)は標準(ひょうじゅん)和名とし必(かなら)ずカタカナ表記にします。植生調査(ちょうさ)票(ひょう)には、出現(しゅつげん)した種名(しゅめい)・被度(ひど)だけでなく、調査(ちょうさ)日、調査(ちょうさ)地の場所、調査(ちょうさ)コドラートのサイズ、群落(ぐんらく)高、群落(ぐんらく)の階層(かいそう)構造(こうぞう)、植被率(しょくひりつ)など、様々な情報(じょうほう)を記載(きさい)します。記載(きさい)内容(ないよう)は目的(もくてき)に応(おう)じて様々にアレンジされ、プリントアウトした専用(せんよう)の用紙を用いて土壌(どじょう)や地形、群落(ぐんらく)断面図(だんめんず)などの詳細(しょうさい)情報(じょうほう)まで記載(きさい)する場合や(図1)、普段(ふだん)使いのフィールドノート(野帳)に種名(しゅめい)と被度(ひど)のみ記載(きさい)するような簡素(かんそ)な場合もあります(図2)。湿原(しつげん)では高木の分布(ぶんぷ)がほとんどなく、群落(ぐんらく)の階層(かいそう)構造(こうぞう)も未(み)発達(はったつ)なことが多いため、植生調査(ちょうさ)票(ひょう)は比較的(ひかくてき)簡素(かんそ)となる傾向(けいこう)にあります。

図1. 植生調査(ちょうさ)票(ひょう)の一例(いちれい)
出典(しゅってん):「第2回自然(しぜん)環境(かんきょう)保全(ほぜん)基礎(きそ)調査(ちょうさ)要綱(ようこう)」(環境省(かんきょうしょう)生物多様性(たようせい)センター)

図2. フィールドノート(野帳)と記載(きさい)された植生調査(ちょうさ)データ

 植生調査(ちょうさ)票(ひょう)に記載(きさい)された種名(しゅめい)や被度(ひど)などのデータは、Microsoft Excel等(など)のPCソフトに入力し取(と)り纏(まと)めることになります。植生調査(ちょうさ)票(ひょう)に記載(きさい)した内容(ないよう)や植生データの利用(りよう)目的(もくてき)によってPCへの入力様式や取(と)り纏(まと)め方は変(か)わってきますが、ここでは最低限(さいていげん)の情報(じょうほう)のみ入力した簡素(かんそ)な例(れい)で解説(かいせつ)します。一般的(いっぱんてき)には、データシートの左端(ひだりはし)の列に種名(しゅめい)を入力し、見出しとなる1行目に調査(ちょうさ)地点番号を入力します(表1)。つまり、植生調査(ちょうさ)票(ひょう)1枚(まい)ぶんのデータが縦(たて)1列に相当します。こうして入力された植生データは乱雑(らんざつ)でランダムのようにみえますが、注意深く整理してゆくことで、植生調査(ちょうさ)した場所にどんな群落(ぐんらく)が分布(ぶんぷ)していたのかが見えてきます。

 整理するにあたり、まずは常在(じょうざい)度という指標(しひょう)を算出します。ここで算出する常在(じょうざい)度とは、全調査(ちょうさ)地点のなかで各種(かくしゅ)がそれぞれ何%出現(しゅつげん)したのかを表したものです((出現(しゅつげん)回数/全調査(ちょうさ)地点数)×100)。この常在(じょうざい)度が中程度(ちゅうていど)(60~10%程度(ていど))の種(たね)に着目し、識別(しきべつ)種(しゅ)を探(さが)します。識別(しきべつ)種(しゅ)とは、ある群落(ぐんらく)に特徴的(とくちょうてき)に出現(しゅつげん)する種(しゅ)を意味し、群落(ぐんらく)の分類(ぶんるい)や区別(くべつ)に利用(りよう)されます。従(したが)って、識別(しきべつ)種(しゅ)は調査(ちょうさ)地点全体にまんべんなく出現(しゅつげん)するわけではなく、ある程度(ていど)の調査(ちょうさ)地点に偏(かたよ)って出現(しゅつげん)します。識別(しきべつ)種(しゅ)を探(さが)す際(さい)には、データシートの種(しゅ)の並(なら)びを常在(じょうざい)度の高い順(じゅん)に並(なら)び替(か)え(並(なら)び替(か)えたデータシートを常在(じょうざい)度表と呼(よ)ぶこともあります)、上述(じょうじゅつ)した「常在(じょうざい)度が中程度(ちゅうていど)の種(しゅ)群(ぐん)」から出現(しゅつげん)状態(じょうたい)が対立的(たいりつてき)な種(しゅ)群(ぐん)に着目するのがコツです。

 識別(しきべつ)種(しゅ)群(ぐん)を探(さが)しながら、データシートの行(種(しゅ))と列(調査(ちょうさ)地点)を並(なら)び替(か)えて徐々(じょじょ)に群落(ぐんらく)を区分してゆきます。識別(しきべつ)種(しゅ)については、同じような出現(しゅつげん)傾向(けいこう)を示(しめ)す識別(しきべつ)種(しゅ)群(ぐん)がまとまるようデータシートの上方行(いき)へ移動(いどう)させます。調査(ちょうさ)地点については、同じような種(しゅ)が出現(しゅつげん)する調査(ちょうさ)地点群(てんぐん)がまとまるよう列を並(なら)び替(か)えます。この操作(そうさ)を繰(く)り返(かえ)し微調整(びちょうせい)していくことで、調査(ちょうさ)地の植生を区分することができます。この作業はある程度(ていど)の経験(けいけん)を要(よう)する部分なので、はじめは戸惑(とまど)うところが多く時間もかかります。

表1. 種名(しゅめい)と被度(ひど)を入力したデータシート(素(そ)表)

 ひととおりデータシートの整理が済(す)んだら、同じ出現(しゅつげん)傾向(けいこう)を示(しめ)す識別(しきべつ)種(しゅ)・調査(ちょうさ)地点を線で囲(かこ)い、群落(ぐんらく)名をつけます(表2)。群落(ぐんらく)の命名には、伝統(でんとう)様式や現地(げんち)の様子(植生の階層(かいそう)構造(こうぞう))などいくつかの要素(ようそ)が絡(から)んできます。被度(ひど)の高い識別(しきべつ)種(しゅ)が群落(ぐんらく)名となる場合や、優占種(ゆうせんしゅ)と識別(しきべつ)種(しゅ)をハイフンで結(むす)んだ群落(ぐんらく)名などもあります。また、群落(ぐんらく)の区分が入れ子構造(こうぞう)になっている場合は、上位(じょうい)の識別(しきべつ)種(しゅ)と下位(かい)の識別(しきべつ)種(しゅ)をハイフンで結(むす)んで群落(ぐんらく)名とする場合もあります。

表2. 識別(しきべつ)種(しゅ)により群落(ぐんらく)区分されたデータシート(群落(ぐんらく)組成(そせい)表)

 さらに、同じ群落(ぐんらく)に属(ぞく)する調査(ちょうさ)地点群(ぐん)のデータを1列にまとめた要約(ようやく)表を作成(さくせい)することがあります(表3)。この表を作成(さくせい)するためには、各(かく)群落(ぐんらく)内での各種(かくしゅ)の常在(じょうざい)度を求(もと)め、それらの常在(じょうざい)度をローマ数字表記の5階級に変換(へんかん)します(表4)。そうすることで、一つの群落(ぐんらく)が1列に要約(ようやく)された簡潔(かんけつ)な表ができあがります。要約(ようやく)表では、常在(じょうざい)度を表すローマ数字の右側(みぎがわ)に群落(ぐんらく)内での被度(ひど)の範囲(はんい)を併記(へいき)することもあります(例(れい):Ⅴ10-50)。データ入力したばかりのシートでは情報(じょうほう)が混沌(こんとん)としていましたが、こうして整理することで調査(ちょうさ)地にどういった特徴(とくちょう)を持つ植生が分布(ぶんぷ)しているのか簡単(かんたん)に把握(はあく)することができます。

表3. 要約(ようやく)表(識別(しきべつ)表)

表4. 常在(じょうざい)度級の区分

 ここで紹介(しょうかい)した植生データの取(と)り纏(まと)め方は、「植物社会学」におおよそ則(のっと)ったものとなっています(厳密(げんみつ)には異(こと)なっている部分も多々あります)。かつては、植生区分・群落(ぐんらく)分類(ぶんるい)といえば植物社会学の出番で、ある程度(ていど)の知識(ちしき)・経験(けいけん)が必要(ひつよう)な「職人芸(しょくにんげい)」に近いものがありました。しかし、その後PCが普及(ふきゅう)することで統計的(とうけいてき)演算(えんざん)による分類(ぶんるい)が行われるようになってきました。統計的(とうけいてき)群落(ぐんらく)分類(ぶんるい)で利用(りよう)される代表的(だいひょうてき)な方法(ほうほう)としては、modified TWINSPAN(Two-Way Indicator Species Analysis:二元指標(しひょう)種(しゅ)分析法(ぶんせきほう))やnMDS(Non-metric Multidimensional Scaling:非(ひ)計量(けいりょう)多次元尺度(しゃくど)法(ほう))座標(ざひょう)を用いたk-means法(ほう)による非(ひ)階層(かいそう)クラスター分析(ぶんせき)などがあります。これらの解析(かいせき)手順(てじゅん)はここでは割愛(かつあい)しますが、いずれの方法(ほうほう)も統計(とうけい)フリーソフト「R」を用いて誰(だれ)でも比較的(ひかくてき)簡単(かんたん)にはじめられるようになってきています。