フィールドで調査した植生のデータは、植生調査票に現場で記入します。植生調査データは学術的な記録を目的としたものなので、種名は標準和名とし必ずカタカナ表記にします。植生調査票には、出現した種名・被度だけでなく、調査日、調査地の場所、調査コドラートのサイズ、群落高、群落の階層構造、植被率(など、様々な情報を記載します。記載内容は目的に応じて様々にアレンジされ、プリントアウトした専用の用紙を用いて土壌や地形、群落断面図などの詳細情報まで記載する場合や(図1)、普段使いのフィールドノート(野帳)に種名と被度のみ記載するような簡素な場合もあります(図2)。湿原では高木の分布がほとんどなく、群落の階層構造も未発達なことが多いため、植生調査票は比較的簡素となる傾向にあります。
図1. 植生調査票の一例
出典:「第2回自然環境保全基礎調査要綱」(環境省生物多様性センター)
図2. フィールドノート(野帳)と記載された植生調査データ
植生調査票に記載された種名や被度などのデータは、Microsoft Excel等のPCソフトに入力し取り纏めることになります。植生調査票に記載した内容や植生データの利用目的によってPCへの入力様式や取り纏め方は変わってきますが、ここでは最低限の情報のみ入力した簡素な例で解説します。一般的には、データシートの左端の列に種名を入力し、見出しとなる1行目に調査地点番号を入力します(表1)。つまり、植生調査票1枚ぶんのデータが縦1列に相当します。こうして入力された植生データは乱雑でランダムのようにみえますが、注意深く整理してゆくことで、植生調査した場所にどんな群落が分布していたのかが見えてきます。
整理するにあたり、まずは常在度という指標を算出します。ここで算出する常在度とは、全調査地点のなかで各種がそれぞれ何%出現したのかを表したものです((出現回数/全調査地点数)×100)。この常在度が中程度(60~10%程度)の種に着目し、識別種を探します。識別種とは、ある群落に特徴的に出現する種を意味し、群落の分類や区別に利用されます。従って、識別種は調査地点全体にまんべんなく出現するわけではなく、ある程度の調査地点に偏って出現します。識別種を探す際には、データシートの種の並びを常在度の高い順に並び替え(並び替えたデータシートを常在度表と呼ぶこともあります)、上述した「常在度が中程度の種群」から出現状態が対立的な種群に着目するのがコツです。
識別種群を探しながら、データシートの行(種)と列(調査地点)を並び替えて徐々に群落を区分してゆきます。識別種については、同じような出現傾向を示す識別種群がまとまるようデータシートの上方行へ移動させます。調査地点については、同じような種が出現する調査地点群がまとまるよう列を並び替えます。この操作を繰り返し微調整していくことで、調査地の植生を区分することができます。この作業はある程度の経験を要する部分なので、はじめは戸惑うところが多く時間もかかります。
表1. 種名と被度を入力したデータシート(素表)
ひととおりデータシートの整理が済んだら、同じ出現傾向を示す識別種・調査地点を線で囲い、群落名をつけます(表2)。群落の命名には、伝統様式や現地の様子(植生の階層構造)などいくつかの要素が絡んできます。被度の高い識別種が群落名となる場合や、優占種と識別種をハイフンで結んだ群落名などもあります。また、群落の区分が入れ子構造になっている場合は、上位の識別種と下位の識別種をハイフンで結んで群落名とする場合もあります。
表2. 識別種により群落区分されたデータシート(群落組成表)
さらに、同じ群落に属する調査地点群のデータを1列にまとめた要約表を作成することがあります(表3)。この表を作成するためには、各群落内での各種の常在度を求め、それらの常在度をローマ数字表記の5階級に変換します(表4)。そうすることで、一つの群落が1列に要約された簡潔な表ができあがります。要約表では、常在度を表すローマ数字の右側に群落内での被度の範囲を併記することもあります(例:Ⅴ10-50)。データ入力したばかりのシートでは情報が混沌としていましたが、こうして整理することで調査地にどういった特徴を持つ植生が分布しているのか簡単に把握することができます。
表3. 要約表(識別表)
表4. 常在度級の区分
ここで紹介した植生データの取り纏め方は、「植物社会学」におおよそ則ったものとなっています(厳密には異なっている部分も多々あります)。かつては、植生区分・群落分類といえば植物社会学の出番で、ある程度の知識・経験が必要な「職人芸」に近いものがありました。しかし、その後PCが普及することで統計的演算による分類が行われるようになってきました。統計的群落分類で利用される代表的な方法としては、modified TWINSPAN(Two-Way Indicator Species Analysis:二元指標種分析法)やnMDS(Non-metric Multidimensional Scaling:非計量多次元尺度法)座標を用いたk-means法による非階層クラスター分析などがあります。これらの解析手順はここでは割愛しますが、いずれの方法も統計フリーソフト「R」を用いて誰でも比較的簡単にはじめられるようになってきています。