第6回 フェン

Fen(フェン)は、ヨシやスゲが優占 (イネ科草本・スゲ属草本)する湿原で、泥炭土壌の表面が水面下に位置するところに発達しやすい湿原です。大型イネ科草本やスゲ類が優占する湿原です。ボッグの雨水涵養とは違って、地面の上の水(表流水)や地下水由来の湧水、河川水などを経由した鉱物質に富んだ水で満たされる湿原のことを「鉱水涵養性」の湿原と言います。その水は、鉱物質の土壌層(岩・砂・粘土)や地表を通ったもので、その過程で溶け出した栄養塩類を含んでいます。

典型的なフェン。大型イネ科草本やスゲ類が優占する。

フェンは、主にPoor fen と Rich fenの2つのタイプが存在します。Rich fenは、種数が多く好石灰性の指標種が多いフェン、Poor fenは種数が少なく嫌石灰性の指標種が多いフェンのことを言います。このPoor(貧しい)とRich(豊かな)について、もともとは種数の多さを表現するために付けられた用語でした。しかし、その後は好石灰性の種が多いかどうか、Ca(カルシウム)の多い環境かどうかといったカルシウムとの関連性も含めて使用されるようになってきています。

なぜ、カルシウムの多さに着目されるようになったかですが、大陸ではカルシウムを多く含む石灰岩が母岩として広く分布しています。その石灰岩から溶け出したカルシウムが、湿原植物の分布や生育に強く影響するといわれています。このことから、カルシウムの豊富さによって植生タイプを区分するようになりました。

このカルシウムとの関係性を使って、Poor fen と Rich fenの説明をすると、Poor fenはカルシウムに乏しく弱酸性の地下水(pH5〜6)で満たされ、主にスゲ類・イグサ類・イネ科植物で構成されるフェン、Rich fenはカルシウムに富む地下水(pH6〜8)で満たされ、好石灰植物で構成された種多様度の高いフェンということになります。日本に存在するほとんどがPoor fenと言われています。これは石灰岩を母岩とする地域が少ないためです。

Poor fenは、主にスゲ類・イグサ類・イネ科植物で構成される。まれにミズゴケもみられるが、双子葉類はほとんど分布しない。
Rich fenの双子葉植物
主要なフェン種: ヨシ(Phragmites australis)。ヨシはフェンの最も一般的な種で茅葺屋根やよしずなど様々な用途で利用されている。
主要なフェン種: スゲ(Sedge)。スゲ類もフェンを構成する主要種で菅笠やしめ縄等様々な用途で利用されている。しかし、植物自体はあまり知られていない。
主要なフェン種:イグサ類(Rush)。イグサ類はフェンだけでなく幅広い湿地に分布。イグサは畳などで使用され私たちの暮らしには欠かせない植物。