湿原の発達に必要な条件は何でしょうか。まずは、水が豊富にあることが挙げられます。そのほかには、酸性、養分に乏しい (とくに窒素)、ミネラルに乏しい(例えば、Mg、 Ca等)という特異的な水質環境が必要となります。
この豊富な水や養分に乏しい環境条件を満たすためには、養分やミネラルの少ない水を供給する雨水が重要な役割を果たします。こうした雨水だけで土壌が満たされ発達してゆく湿原のことを雨水涵養性(ombrotrophic)の湿原といいます。
その雨水涵養性湿原の最も一般的なものとしてRaised bog(レイズドボッグ)があります。ボッグの詳細については後に解説しますが、レイズドボッグはひっくり返したお皿のようにわずかに盛り上がった地形(ドーム状)に発達するのが大きな特徴です。数キロメートルでわずか数十センチから数メートルのドームで、山のような明瞭な地形ではありません。わずかな高さのドーム地形ではありますが、盛り上がった部分では雨水しか供給されません。雨水は、養分とミネラルに乏しいため、大型の植物が育たず、その貧栄養・貧ミネラルの環境に生存・生育できるミズゴケが優占する湿原になります。
レイズドボッグは、次のようにして発達するといわれています。
① 浅い湖の状態
② はじめにヨシ等のマットが発達。そして、それらの遺体が堆積しはじめ (泥炭土壌の形成)、Fen(フェン)が出現します。フェンについては後に解説します。
③ スゲ類、イグサ類、イネ科草本、小型木本が入り込み、それらが泥炭としてさらに堆積し、典型的なフェンが発達します。
④ 泥炭土壌がさらに厚くなると、植物の根は元々の湖水(ミネラルに富む地下水)に接触できなくなります。その結果、養分は雨水からしか得られなくなり、養分やミネラルに極めて乏しい環境が形成されます。
⑤ ミズゴケが進入しはじめます。そしてついにフェンはレイズドボッグとなります。ミズゴケは極めて養分に乏しい雨水でも生存が可能です。
※レイズドボッグの発達過程には地下水の湧水も関係しているとの報告もあります。
釧路湿原(温根内・赤沼周辺)のバーチャルツアーでレイズドボッグを探してみましょう。同心円・同心楕円状に植生が異なっている、色が異なる植生で囲まれている場所が多いです。