第8回 湿地生態系の機能(生態系サービス)

生態系(せいたいけい)サービスとは、(わたし)たちが生物や生態系(せいたいけい)から()られる様々な恩恵(おんけい)のことを指し、大きく分けて「供給(きょうきゅう)サービス」・「調整サービス」・「文化的(ぶんかてき)サービス」の3つのカテゴリーに分類(ぶんるい)されます。

供給(きょうきゅう)サービス:いろんな資源(しげん)(あた)えてくれる

湿地(しっち)は、(わたし)たちの生活に必要(ひつよう)なさまざまな資源(しげん)を生み出す場所です。(たと)えば、湿地(しっち)に生育する植物は、日用品や伝統(でんとう)工芸(こうげい)利用(りよう)されてきました。

(とく)にフェンには、日本の()らしと深く(むす)びついた(たね)が多く育ちます。ヨシは、「葦簀よしず」や「すだれ」の材料(ざいりょう)となり、スゲ(るい)は「(みの)」や「菅笠(すげがさ)」、しめ(なわ)に使われます。また、(たたみ)原料(げんりょう)として知られるイグサも湿地(しっち)で育つ代表的(だいひょうてき)な植物です。

さらに、湿地(しっち)には食料(しょくりょう)となる魚や貝類(かいるい)が生息し、薬草として利用(りよう)される植物もあります。また、湿地(しっち)の水を利用(りよう)した農業も発展(はってん)してきました。(たと)えば、棚田(たなだ)や水車を活用した伝統的(でんとうてき)な農業技術(ぎじゅつ)は、湿地(しっち)豊富(ほうふ)水資源(みずしげん)(ささ)えられています。

四谷の千枚田(愛知県新城市)©小山舜二

調整サービス:くらしを守る

湿地(しっち)生態系(せいたいけい)の調整機能(きのう)から()られる恩恵(おんけい)として、以下(いか)のようなものがあります。

  • 気候(きこう)調節(ちょうせつ)湿地(しっち)は温度や湿度(しつど)を安定させる役割(やくわり)を持ち、気候(きこう)変動(へんどう)影響(えいきょう)(やわ)らげます。
  • 水の調節(ちょうせつ)湿地(しっち)は「天然(てんねん)の水がめ」として機能(きのう)し、大雨の(さい)には水を(たくわ)え、乾燥(かんそう)時には水を供給(きょうきゅう)します。
  • 水の浄化(じょうか)湿地(しっち)の植物や微生物(びせいぶつ)(よご)れた水をろ()し、きれいな水を生み出します。
  • 自然(しぜん)災害(さいがい)緩衝(かんしょう)湿地(しっち)飛砂(ひさ)や強風、水害(すいがい)潮害(ちょうがい)雪害(せつがい)土砂(どしゃ)災害(さいがい)などを(ふせ)役割(やくわり)()たします。

(とく)にマングローブ林は、津波(つなみ)の流速を低下(ていか)させたり、漂流物(ひょうりゅうぶつ)捕捉(ほそく)することで被害(ひがい)軽減(けいげん)します。また、泥炭地(でいたんち)大量(たいりょう)二酸化(にさんか)炭素(たんそ)貯蔵(ちょぞう)し、気候(きこう)変動(へんどう)緩和(かんわ)貢献(こうけん)しています。

実際じっさいに、泥炭地でいたんち貯蔵ちょぞうする二酸化にさんか炭素たんそりょうは、世界中の森林が貯蔵ちょぞうするりょうの2倍以上いじょうにもなります。

文化的(ぶんかてき)サービス:文化を(ゆた)かにする

湿地(しっち)生態系(せいたいけい)は、(わたし)たちの文化や生活にも大きな影響(えいきょう)(あた)えてきました。

  • レクリエーション:湿地(しっち)でのカヌー体験(たいけん)やバードウォッチングなど、自然(しぜん)を楽しむ活動が行われています。
  • 景観(けいかん)湿地(しっち)の美しい風景(ふうけい)は、多くの人々を魅了(みりょう)し、観光(かんこう)資源(しげん)にもなっています。
  • 教育・普及ふきゅう啓発けいはつ湿地(しっち)自然(しぜん)環境(かんきょう)生態系(せいたいけい)について学ぶ場として活用され、環境(かんきょう)教育のフィールドとしても重要(じゅうよう)です。
  • 伝統でんとう文化:湿地しっちかかわる信仰しんこうや祭りが各地かくちで見られます。
西湖HOBIE(カヌー)エコツアー(2024年11月)

(たと)えば、島根県古賀町(よしかちょう)では「水神祭り」が行われています。この祭りでは、(わら)で作った(りゅう)を大木に(くく)りつけ、それを水源(すいげん)とされる川に入れることで、(りゅう)が天に(のぼ)る様子を表現(ひょうげん)し、雨を祈願(きがん)します。

また、湿地(しっち)風景(ふうけい)や生き物は、芸術(げいじゅつ)や文学にも影響(えいきょう)(あた)えてきました。中世以降(いこう)浮世絵(うきよえ)には湿地(しっち)の植物(花菖蒲(はなあやめ)(ふじ)など)や鳥((がん)(つる)など)が多く(えが)かれました。さらに、近代の日本画や洋画にも湿地(しっち)風景(ふうけい)(えが)かれ、人々の生活と自然(しぜん)とのつながりが表現(ひょうげん)されています。

このように、湿地(しっち)生態系(せいたいけい)(わたし)たちの()らしや文化、自然(しぜん)環境(かんきょう)()かせない存在(そんざい)です。生態系(せいたいけい)サービスを理解(りかい)し、大切にすることで、湿地(しっち)未来(みらい)の世代へと()()いでいきましょう。

参考図書:『図説 日本の湿地 ―人と自然と多様な水辺』、日本湿地学会監修、朝倉書店、2017年

本ページに掲載けいさいしている写真の一部は、一般いっぱん社団しゃだん法人ほうじん おく三河みかわ観光かんこう協議会きょうぎかい愛知県あいちけん新城市しんしろし)、朝倉市あさくらし商工観光かんこう吉賀町よしかちょう観光かんこう協会きょうかいよりご提供ていきょういただいたものです。

/*ルビ設定*/