生態系サービスとは、私たちが生物や生態系から得られる様々な恩恵のことを指し、大きく分けて「供給サービス」・「調整サービス」・「文化的サービス」の3つのカテゴリーに分類されます。
供給サービス:いろんな資源を与えてくれる
湿地は、私たちの生活に必要なさまざまな資源を生み出す場所です。例えば、湿地に生育する植物は、日用品や伝統工芸に利用されてきました。
特にフェンには、日本の暮らしと深く結びついた種が多く育ちます。ヨシは、「葦簀」や「簾」の材料となり、スゲ類は「蓑」や「菅笠」、しめ縄に使われます。また、畳の原料として知られるイグサも湿地で育つ代表的な植物です。
さらに、湿地には食料となる魚や貝類が生息し、薬草として利用される植物もあります。また、湿地の水を利用した農業も発展してきました。例えば、棚田や水車を活用した伝統的な農業技術は、湿地の豊富な水資源に支えられています。
四谷の千枚田(愛知県新城市)©小山舜二
三連水車(福岡県朝倉市)
調整サービス:くらしを守る
湿地生態系の調整機能から得られる恩恵として、以下のようなものがあります。
- 気候の調節:湿地は温度や湿度を安定させる役割を持ち、気候変動の影響を和らげます。
- 水の調節:湿地は「天然の水がめ」として機能し、大雨の際には水を蓄え、乾燥時には水を供給します。
- 水の浄化:湿地の植物や微生物が汚れた水をろ過し、きれいな水を生み出します。
- 自然災害の緩衝:湿地は飛砂や強風、水害、潮害、雪害、土砂災害などを防ぐ役割を果たします。
特にマングローブ林は、津波の流速を低下させたり、漂流物を捕捉することで被害を軽減します。また、泥炭地は大量の二酸化炭素を貯蔵し、気候変動の緩和に貢献しています。
マングローブ林(奄美住用川,2019年10月)
実際に、泥炭地が貯蔵する二酸化炭素の量は、世界中の森林が貯蔵する量の2倍以上にもなります。
サロベツ湿原(2018年7月)
サロベツ湿原(2024年6月)
雨竜沼湿原(2019年7月)
釧路湿原(2020年8月)
歯舞湿原(2023年9月)
文化的サービス:文化を豊かにする
湿地生態系は、私たちの文化や生活にも大きな影響を与えてきました。
- レクリエーション:湿地でのカヌー体験やバードウォッチングなど、自然を楽しむ活動が行われています。
- 景観:湿地の美しい風景は、多くの人々を魅了し、観光資源にもなっています。
- 教育・普及啓発:湿地は自然環境や生態系について学ぶ場として活用され、環境教育のフィールドとしても重要です。
- 伝統文化:湿地と関わる信仰や祭りが各地で見られます。
西湖HOBIE(カヌー)エコツアー(2024年11月)
例えば、島根県古賀町では「水神祭り」が行われています。この祭りでは、藁で作った龍を大木に括りつけ、それを水源とされる川に入れることで、龍が天に昇る様子を表現し、雨を祈願します。
水神祭り(島根県古賀町)
また、湿地の風景や生き物は、芸術や文学にも影響を与えてきました。中世以降、浮世絵には湿地の植物(花菖蒲、藤など)や鳥(雁、鶴など)が多く描かれました。さらに、近代の日本画や洋画にも湿地の風景が描かれ、人々の生活と自然とのつながりが表現されています。
このように、湿地生態系は私たちの暮らしや文化、自然環境に欠かせない存在です。生態系サービスを理解し、大切にすることで、湿地を未来の世代へと引き継いでいきましょう。
参考図書:『図説 日本の湿地 ―人と自然と多様な水辺』、日本湿地学会監修、朝倉書店、2017年
本ページに掲載している写真の一部は、一般社団法人 奥三河観光協議会(愛知県新城市)、朝倉市商工観光課、吉賀町観光協会よりご提供いただいたものです。