湿地は地球上の貴重な生態系であり、一方で、特に人間活動の影響を受けやすい脆弱な生態系であるため、湿地の保全と再生には多くの理解と努力が必要です。また、残存する湿地の保全のためには、最先端の技術を取り入れた生態系の変化を捉える長期モニタリングが必要不可欠です。
このオープン教材では、湿地生態系の深い理解と環境に対する豊かな感受性をはぐくみ、湿地の保全・再生や利活用といった実践力を身に付けることを学習到達目標とします。また、具体的な学習内容は、小学校の教育課程の例を参考に、以下の2つの領域に分けた新しいジャンルとしての「湿地環境教育」です。
(1) 湿地の自然学:主に自然科学分野に関わる内容
ここでは理科や算数、総合的な学習の時間、生活科などと関連する内容となり、それぞれの学習内容や発達段階を考慮し、湿地生態系の深い理解と環境に対する豊かな感受性をはぐくんでいきます。特に、小学校4年生の理科「季節と生き物」では、複数の湿地を選定し、定量的な「比較」を通じて問題解決能力を育成します。また、6年生の理科「生物と環境」では、食物連鎖や空気や水のつながりを湿地で再発見(認識)する場面を大事にします。
さらに、湿地における水文学では、水の循環の一部として湿地を取り上げること(水の三態変化や水循環)は、田んぼや池沼などの湿地が日常生活の一部であることの理解を深めるのに効果的です。
(2) 湿地の人間学:主に人文・社会科学分野に関わる内容
ここでは社会科や国語、総合的な学習の時間、生活科などと関連する内容となります。前述の「湿地の自然学」と同様に、湿地生態系の深い理解と環境に対する豊かな感受性をはぐくんでいきます。自然学と異なるのは、文化的な背景や生活そのものにアプローチする点です。湿地でのホンモノ体験(観察)を重視する自然学とは異なり、4年生の社会科「水はどこから」や国語教育全般の言語活動を駆使し、湿地の保全・再生や利活用などの実践力への手がかりとします。
また、「湿地の自然学」の上位概念として位置づけられる「湿地の人間学」は、自然学よりも幅広い視点をもっています。そのため、義務教育における教育課程(各教科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間)と密接に関連させることができ、各学校のカリキュラムや地域の特性、児童生徒の発達段階に即した展開が可能です。
湿地環境教育は、現代に生きる私たち一人ひとりにとって大切なものです。湿地を取り巻く学問領域や関連する活動は多岐にわたり、その内容は広がりと深まりをもっています。そのため、学校の教育課程に限らず、幅広い年齢層やさまざまな立場の人々が取り組むべきであり、あらゆる教育の場で学ばれるべきだと考えています。さあ、未知なる湿地へとさらなる一歩を踏み出しましょう。
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※本教材は、科学研究費補助金 基盤研究(B) 「UAVVR生態系アーカイブに関する技術開発と教育・研究DX推進へ向けた展開 」(22H03788)を用いて制作しました。